第101回  ミミズに学ぶバイオ燃料生産

ミミズ由来酵素でバイオエタノールをつくる

シマミミズ

シマミミズ(Eisenia foetida)

 ミミズは、体重の半分の量の有機物(枯れ葉や小枝など)を1日で分解し、その糞は植物の生育を促進し、植物病原菌に対する抵抗性を高める効果がある。近年、シマミミズを利用した食品廃棄物のコンポスト(堆肥)化が注目されている。

4億年前から地球上に生息しているミミズ。 土から生まれた植物を分解し、養分として 土に還元する、資源循環の大いなる担い手、 ミミズに学ぶバイオ燃料生産とは?

脱化石燃料依存、二酸化炭素の排出抑制などを目的に、バイオマス(生物由来)資源からのエネルギー生産が活発化しています。現在の主流は、トウモロコシやサトウキビなどのデンプンを微生物由来の酵素で糖化し、酵母で発酵させてバイオエタノールを取り出す方法ですが、60℃以下では酵素活性が低下するため、化石燃料を使って高温下で蒸煮し、糖化した後にも冷ますという工程も必要となっています。そこで生産のためにできるだけエネルギーを使わずに生産工程も省ける、低温(常温)下で糖化・発酵する新たな技術の開発を目指して、着目したのがミミズでした。

ミミズは4億年前から地球上に生息し、氷河期も生き延びてきた種であり、低温環境でも生育することができます。また繁殖能力も高く、枯れ葉や小枝などの有機物を食べ、排出する糞が土壌を肥沃にすることで知られており、食品廃棄物の堆肥化などにも利用されています。そのため、低温下でも活性を有する分解酵素をもっているのではないかと考えたのです。

これまでの研究で、生デンプンを分解する酵素が発見され、16℃?25℃でも高い活性を示すことが明らかになりました。実験の結果、コメの生デンプンからエタノールが生産できることも確認されたのです。さらに、高濃度エタノールを効率よく生産するために、ミミズ由来酵素と微生物由来酵素を混ぜた“酵素カクテル”を用いた低温糖化・発酵システムの研究も進められています。

低温糖化・発酵法は、エネルギーを使わない分、製造コストの低下や二酸化炭素の排出抑制に寄与します。食品廃棄物などを原料とし、アルコールを絞ったかすを肥料として利用すれば、資源循環にも貢献できます。また、ミミズ由来のセルロース分解酵素の単離、遺伝子発現にも成功しており、食料とバッティングしない木質バイオマスによるエタノール生産を形にすることも期待されているのです。

 

上田光宏 准教授
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科

上田光宏 准教授

 自然の不思議な現象に研究のヒントが隠れている

自然の中の現象を見つめてみると、不思議に思うことがたくさんあります。実は、そこにこそ研究のヒントがあることを恩師から教わりました。そして、何より重要なのは、自然がつながっていることを忘れないことです。自然の一部だけを切り取って拝借してきて、何かを形にしようとしてもうまく行きません。たとえば、ミミズの体内や周辺に生息する微生物などが、ミミズの有機物分解能に大きく寄与している可能性も考えられます。自然の力やメカニズムを応用するには、人間が主役ではなく自然がメインであること、生態系の保持なども考える必要があるんですね。 研究していく上で難しいことも多く、自分一人で全うできるものでもありません。現在は、学生さんやいろいろな分野の先生たちとのつながりのなかで、一歩ずつ積み上げて研究を進めている状況です。

 

トピックス

 スーパーキャパシタは、電気二重層キャパシタとも呼ばれています。電池に比べて内部抵抗が非常に低いため大電流の放出が可能で、完全放電しても電池のように壊れないのが、大きな特徴です。電池は充放電を繰り返すと劣化し、寿命が短いですが、キャパシタは寿命が非常に長く、普通の電池の100倍以上長持ちするとも言われています。燃料電池とスーパーキャパシタを組み合わせたハイブリッド自動車などもすでに登場しており、夜間電力の蓄電などへの利用も始まっています。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーと組み合わせることで、再生可能エネルギー社会の構築にも期待が寄せられています。蓄えられる電気量が小さいことが課題でしたが、ナノポーラスハイブリッド材料の登場が、さらに高性能なウルトラキャパシタの開発に大きく道を拓いたと言えるでしょう。