第128回  粘土鉱物に学ぶ光機能性材料の創製

色素と粘土鉱物で人工光捕集システムをつくる

粘土鉱物-色素複合体

粘土鉱物-色素複合体

 最上段の2枚の写真は、2種類の色素を用いて粘土ナノシートとの複合体による吸収の色調変化を観察したもの。それぞれの写真の左側は水と色素、中央は水と複合体(剥離体)、右側は水と複合体(積層体)である。2段目と3段目左の3枚の発光写真は、それぞれ左側は水と色素、右側は水と複合体(剥離体)であり、2段目の2枚では発光色の変化、3段目では発光強度の増大が見られる。3段目右側は、色素-粘土複合体の蛍光で描いたカワセミの絵(博士2年、塚本孝政さん作)で、美しく発光している。いずれもブラックライトを照射。最下段の写真は、粘土鉱物の表面を撮影した原子間力顕微鏡(AFM)画像。粘土鉱物は、ケイ素、マグネシウム、アルミニウムを含む板状の粒子で、右側の拡大写真では平滑な表面と原子配列の規則性が見て取れる。

分子が規則的に並ぶことで生まれる生物の機能。 それを司るのがタンパク質だ。化学反応場として、 タンパク質に似た規制力と柔軟性を合わせもつ、 粘土鉱物に学ぶ光機能性材料の創製とは?

植物が行う光合成では、太陽の光を集めるためにクロロフィル分子が非常にきれいに環状や線状に配列しています。その導線のような配列によって、エネルギーや電子が一方向に流れることができるのです。生体内で、このような機能の発現を制御しているのがタンパク質です。化学反応場として非常に優れていますが、人工的にタンパク質を反応場として利用するのは容易ではありません。そして、気相、液相、ゼオライトなど、さまざまな反応場を試すなかで着目したのが、タンパク質に似た規制力と柔軟性を合わせもつ粘土鉱物でした。

粘土鉱物は、原子レベルで平滑な平面を形成する層状化合物です。表面上にはマイナスの電荷が整然と並んでおり、その密度を制御することも可能です。通常は、ケイ酸塩ナノシートが積層した構造体ですが、水中では膨潤して一枚一枚剥離し、分散させることができます。この粘土ナノシートをテンプレートとして用いると、静電相互作用によって、ポルフィリン類のようなプラスの電荷をもつ色素分子をきれいに規則的に配列させることができるのです。一般に、鉱物のような無機表面にポルフィリンのような有機分子を乗せると不規則な集合体にしかなりませんが、電荷配列のサイズをマッチングさせることでキレイに配列させることが可能となったのです。

こうして開発された色素-粘土ナノシート複合体が、色素配列や積層状態などの構造を制御することで、色調が大きく変化すること、発光強度が増強され発光しないとされてきた物質が発光することなどが、これまでの実験で確認されています。

研究の目標の1つは、人工光合成を実用化するために、人工光捕集システムを完成させることです。複合体の3次元構造化や、光捕集系から物質変換反応系への連結に向けた研究なども進められています。また、周囲の環境に応じた色調や発光強度の変化などを利用した、新たな光機能材料としてもさまざな可能性を秘めているのです。

 

高木慎介 准教授
首都大学東京大学院 都市環境化学研究科

高木慎介 准教授

 次世代型エネルギー“人工光合成”の実現に貢献したい

環境問題やエネルギー問題は、いまや避けて通れない課題です。エネルギー革命が必要であり、人工光合成はそれを担う有力候補です。人工光合成は光から電気ではなく、光から化学エネルギーをつくるシステムです。貯蔵や移送も容易で、燃料電池などと組み合わせれば、いつでも電気に変換できます。 植物におけるクロロフィル分子の美しく機能的な配置もそうですが、生体では分子をきれいに並べることが、機能を生み出す重要な要素です。では、化学でどう再現するのか。反応場を探して、行き着いたのが粘土鉱物でした。色素分子をきれいに並べることができ、その構造を柔軟に制御できるという点で、タンパク質に似ていると考えたのです。まだ時間はかかると思いますが、粘土鉱物と色素の出会いを利用して、人工光合成の実用化に貢献したいですね。また近年、粘土鉱物は生命の起源に関わっているのではないかとも言われており、その点も探求してみたいと考えています。

 

トピックス

 植物が行う光合成は、太陽のエネルギーを使って、二酸化炭素と水から栄養源となる糖質をつくり出す、自身が成長するために不可欠なものです。そして、この糖質やこのときに放出される酸素によって、人間を含むあらゆる生物が生きていくことができるのです。 光合成は、太陽の光エネルギーを吸収して化学変化がおこる「明反応」と、その産生物をもらって二酸化炭素から糖質を合成する「暗反応」の2つに大別されます。明反応では、光エネルギーを使って水を分解し、酸素と水素イオンと電子を生成します。この水から電子を取り出す過程を人工的に再現し、化学エネルギーを生産するのが人工光合成です。植物が行っている光合成のエネルギー変換効率は1%程度といわれており、決して効率は良くありません。いかに光を集めて光化学反応を高効率で実現するか、そのための研究がさまざまに行われているのです。

 

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