第120回 嫌気性微生物に学ぶ環境浄化技術
微生物の電気化学活性化による地下水浄化
自然界では、微生物たちがさまざまな物質を分解して土に還元しています。その力を利用して有機塩素系溶媒、油、重金属などの汚染物質を分解・無害化し、環境浄化を図るバイオレメディエーション技術は、地層の表面や浅い部分では窒素やリンなどの栄養分が豊富で、微生物の量も多いために活性が高く、その効果が期待されています。一方、地下水汚染につながる地下深層部では、栄養源が少なく酸素濃度が低いために微生物の活性が表層に比べて100分の1以下に低下すると言われています。微生物による浄化効果を上げるためには栄養源(炭素減)を大量に投入する必要があり、栄養源自体が2次的な汚染物質になるという問題がありました。
たとえば、肥料としてまかれた窒素分の60%は植物に吸収されずに、土中でアンモニア、そして硝酸へと変化して地下水に流れ込み、最終的には河川や海洋の富栄養化の原因となっています。そうした地下水汚染を、有効に浄化する処理方法が実は確立されていなかったのです。そして現在、嫌気性の脱窒菌を微弱な電流で活性化することで硝酸を還元し、窒素ガスを発生させて浄化する、新しい技術開発が注目されています。
これまでの研究で、土壌に含まれる固体腐植ヒューミンという有機無機複合体から微生物が電子を受け取り、その電子を利用して脱塩素や脱窒などの化学反応(呼吸)を行っていることが明らかになりました。そして、ヒューミンを固定化した電極と太陽エネルギーを利用することで微生物を活性化し、自然界における仕組みそのものを人為的に利用するシステムを構築したのです。
これによって、栄養源を大量に投入する必要がなくなり、将来的にはゼロにできるのではないかと考えられています。またこの仕組みを、脱塩素反応、鉄還元反応などへ利用する研究も進められています。
片山新太 教授
名古屋大学 エコトピア科学研究所
自然の中で、自然を強化する系を構築
学部生のときは有機合成を専攻し、その後、環境工学で廃棄物をコンポストにする研究を行って農学部へ就職しました。そして、ダイオキシンの分解を研究するようになってから微生物を扱うようになり、土の中で微生物が全体としてどうなっているのか、バイオマーカーを用いて調べるようになったのです。ちょうどその頃に、塩素系有機溶媒が社会問題化し、工学部の先生と一緒に研究をすることになり、現在に至っています。いろいろな分野に手を染めてきましたが、それがいまの研究に役立っていると思います。
“土は生きている”ということをうまく使って、たとえば硝酸汚染も物質循環に中に戻してやることで、自然の中に自然を強化する系をつくりたいですね。太陽エネルギーを利用し、微弱電流を使った微生物システムと融合することで、疲弊した土を直すのが目標です。
従来、土壌汚染は掘削して除去し、汚染のない土を投入する方法がとられてきました。汚染土壌は処理工場などで浄化処理されてきたのです。しかし、運搬や処理に多くのエネルギーを使い、高額な費用もかかります。また、移動が禁止されている汚染物質もあり、近年、汚染が発生した現地での浄化法が検討されてきているのです。 バイオレメディエーション技術には、土着微生物を利用するバイオスティミュレーションと、浄化用の微生物を環境中に導入するバイオオーグメンテーションの2種類があります。前者の場合は、栄養源を投入するなどして微生物活性を高めるものです。後者は、汚染土壌に有用な浄化菌がまったく、あるいはほとんど存在しない場合に、よそから微生物を導入するもので、生態系への影響評価が重要な課題となっています。 Views: 49